ちゅ、と音を立てて口づけられた指先に、意図せずとも意識が集中した。
表にはあまり出ていないが、確実に自分が動揺している自信がある。

少女らしい、細く白く、柔らかい指先が自分の指に絡むように触れられて、こちらの表情を窺うようにちらりと上目で見遣る姿なぞ、その手のものを仕事とする女よりも余程得てていると思えるほどに魅力的だ。
視線が交わったことで、嬉しそうに顔を綻ばせる少女の淡い唇が、自分の名を形づくる。

いぬやしゃ。

舌足らずのように名を呼ばれて、悪戯っぽく笑うかごめに、恐らく自分は今、間違いなくとても赤い顔をしているのだろうと思ったので、それを誤魔化すように抱きかかえるかごめの髪に顔をうずめた。呼吸をするたびに、柔らかなかごめ自身がまとう匂いと、少女の住まう時代でよく感じる『人工的』な匂いが混ざり合い、とても心地いい。
きゅ、と指の付け根から握ってくるかごめの手を包むように握り返して、くすぐったそうに身を捻らせる彼女の、空いた方の手にお返しとばかりに口づける。甘い匂いに酔いそうになり、誤魔化すように舌で掌の皮膚を舐めると「こら」と、嗜めの言葉を頂いた。

「楽しいのか?」
「うん、楽しい」

かごめにこうして触れること、それは自分にとっては楽しいものだ。
柔らかく、全身から甘い香りのする少女を抱えているだけでも浮かれているくらいだ。
しかし、かごめにとっては骨ばった自分の手など、何が楽しくて悪戯を仕掛けてくるのかと不思議にすら思う。
そんな少年の疑問など露ほども知らぬ少女は、寸分の躊躇いもなく肯定してきた。
物好きな、と苦笑してやろうかと思ったが、他でもない少女自身が好んでくれるというのならば、好きにさせてしまいたいとも思っていたので、結局犬夜叉は自分の欲求を優先させることにした。

すり、と掌に頬を擦り寄らせてくるかごめの様子は愛らしかったが、間違えて自分の鋭利な爪が少女の柔肌を傷つけてしまわないかどうかだけが気掛かりだ。下手に動かせない。
無意識のうちに身を強張らせていたらしい。気付いたかごめがとても楽しそうに笑った。

「ガチガチになってるよ、体」
「・・・・・・・・・・」
「肩凝らない?」
「・・・・別に」

吐き出した言葉は、ぶっきらぼうなくせに酷く甘い響きだ。誰の声だと、未だ自身ですら感じる。
しかしかごめは特にそれを気にした風もなく、相変わらず満足げに犬夜叉の指を触っている。

「いつも」
「うん?」

触れる少女の指の腹が、鋭利な自分の爪の先を軽く辿る。

「この手に、護られてるんだなって、改めて思っちゃって」

私欲の為に、爪を振るったこともあった。以前は、それが当然のことだった。
しかし、護りたいものが出来て、慈しみたいと思える者が出来て、私欲の為に振るわれていた手は、それらを護る為の手段に、形を変えていた。恐らく、それはこれから先も変わることはないのだろう。

「・・・・・・そうか」
「うん。だから、お礼。いつもありがと〜って」
「・・・・・・手にだけかよ」

かごめの言わんとすることは理解していたが、意地悪く笑ってそう言ってやる。どうせ顔はこちらが抱えている限り見えないのだ。どれだけ性悪く笑っていたところで誰も気には出来まい。

「もー、犬夜叉分かって言ってるでしょ」

声に出さずとも小刻みに震える体の振動で、彼が今どんな表情をしているのかはすっかりと伝わってしまったらしい。拗ねたような声に、よりいっそう愛しさが募る。
ずっと、こうしていられたらいいのに、と無いもの強請りに近い願望が頭をよぎった。

「いつもお疲れ様。いつもありがとう」

言い終わるとほぼ同時くらいに、ちゅ、と可愛らしい音を立てて、もう一度口づけれらる掌。
柔らかな感触に、くすぐったく感じる。むず痒いというか、落ち着かない。


どうせなら、別のところにもしてくれ、という言葉を辛うじて飲み込んで、犬夜叉は「ん、」と小さく返事をした。












いつもありがとうの言葉
*いつも全力で護ってくれてるわんこと、わんこの掌に敬意と感謝を称して。辛うじて犬かご?
わんこって手っていうか指すごい綺麗ですよね。別にお姫は手フェチなんじゃありません。でもやっぱわんこの一部分だって思ったり、いつもこの手が護ってくれてるんだーとか思って感極まったのでちゅーしてみた的な。書いてて久々にほのぼのしてみた。内容的にはこっぱずかしいことこの上ありません。

お姫の手って、あったかくて柔らかくていい匂いしそうですね。
でもわんこ、舐めるのはどうかt(ry(初出:08.05.029)*